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2月
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校誌『高妻』26号 巻頭言

巻頭言    「 ESDの歩みを振り返って ~地域創生のために~」

 

ESDとは、持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)の略称である。地球規模の環境破壊や、エネルギー・水等の資源保全が問題化されているなか、人類が現在の生活レベルを維持しつつ、次世代も含む全ての人々により質の高い生活をもたらすことができる状態での開発を目指すことが重要な課題となっている。このため、個人のレベルで地球上の資源の有限性を認識し、自らの考えをもって新しい社会秩序を作り上げていく、地球的な視野をもつ市民を育成するための教育がESDである。

持続可能な開発を進めていくためには、あらゆる主体間で連携を図りながら、教育を推進する必要がある。この教育の範囲は、環境・福祉・平和・開発・ジェンダー・子どもの人権・国際理解・貧困・識字・エイズなど多岐にわたる。
国内では、島しょ部や中山間地域等の過疎化・産業衰退の厳しい環境に置かれている地域でESDの実践が活発である。これらの地域では持続可能性の危機が目前に迫り、ESDへのインセンティブや二ーズが高まっているからである。

中国地方は、中山間地域の居住人口が全体の二割強を占める。かつて中山間部は、里地里山であった。戦後燃料の化石燃料化が完了し、家庭用燃料としての薪・木炭はほぼ姿を消した。また化学肥料の普及、使役家畜の消滅も里山の経済価値を失わせた。こうして経済価値を失った里山は、放置され、松枯れ・竹林化等の植生の変化、有害鳥獣の激増、不法投棄される粗大ゴミや産業廃棄物による汚染にさらされている。

このような里山を保全活用するには、人と自然のかかわりの再生が鍵となるが、過疎化・高齢化の進行等により、これまで里山の維持を担ってきた農家や地域コミュニティだけがその役割を担うことは困難になっている。
一方、都市住民を中心に、NPOや企業等新たな主体による自然とのふれあいや体験、景観の保全等の活動が活発化している。このような新たな担い手、さらに行政や専門家も加えた多様な主体による協働の枠組みのもとに、里山の価値認識と保全活用を進めていくことが中山間地域の創生のために必要になるであろう。環境を保全するためには、地域の生活を守らなければならないのである。

中山間地域において人口減少を理由に各種施設が集約されてサービス水準が低下すれば、人口流出が一層加速し、負のスパイラルが成立する。特に中山間地域にとって欠かせないインフラストラクチャーは、交通・医療・教育であると考える。その意味でも学校の持続発展が地域の持続発展を担保するのである。
我が国では近い将来、持続不可能性が地方都市部をはじめ各所で顕在化すると予想される。中山間地域におけるESDの取組は全国的にも先端の取組となるのである。

平成18年に改正された教育基本法には「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」の規定が新設された。「地域を支え 地域に支えられる学校」こそが、これを具現化する。中山間地域では、高校生は戦力である。地域に積極的に進出することで、地域が活性化するとともに高校生自身もキャリアを身につけ、自らの進路実現に資する。そのような「Win-Winの関係」を構築していくことが、地域を支える人材を育てるために重要であると考える。 [ 校長 川上 公一 ]

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